カカオ農家の生存戦略はコモディティ化せず個別銘柄化すること?

先日、インドネシアで複数のカカオ農園や各地カカオ豆バイヤーを訪れてみて思ったことをまとめてみました。



まず、結論としてはタイトルの通り。

カカオ農家はコモディティとなってしまっており、その中から抜きん出るような活動ができなければ、いつまでたっても儲けることはできないということ。

バイヤーと話してみてわかったことだが、カカオ農家は「カカオ豆の農家のひとつ」としてしか扱われていない。

バイヤーから購入するメーカーや輸出業者はロンドンとニューヨークのカカオの相場価格に沿って買い付けを行っている。そのため、各農家にちょっとした品質の差があったとしてもコモディティとして同様に扱われるのだ。

農家の人と話してみてわかったことを簡単に記しておく

①カカオの栽培と収穫、発酵には手間がかかる

カカオの栽培において、収穫高や品質の維持をしようと思うと、古い木を切ったり、腐ったカカオポッドを除去したり、カカオボーラーと呼ばれる害虫(蛾)の対策をしたりと手間が多い。また、収穫時にもナタで思いカカオポッドを一つ一つ切り取る必要があり、発酵させるためにはカカオポッドから中身のカカオビーンズを取り出し、バナナの葉に包んで5日程度発酵させ、その後また5日ほど乾燥させる必要がある。
そうして乾燥させたカカオをバイヤーが各農家の元に買取に来る。

※地域によっては農家ではなく、バイヤーが発酵の過程を担っている

②農家の人にとってカカオは多くの農作物のうちのひとつでしかない

たとえば、他にお米やコーヒー、パパイヤ、パームなど儲かる作物があればそちらを栽培することに躊躇はない。実際に僕が訪問した農家の一人の人はカカオの買取価格が下がってきたのと、カカオの木の寿命(樹齢20年以上)で収穫高が下がってきたので、お米とコーヒーの栽培に切り替えると話していた。

③カカオの苗を植えて、カカオポッドが実るまで2年〜3年かかる
カカオの生育に適した地域であれば、2~3ヶ月ほどで苗をつくり、それを土に植え替えてから1年半程度で最初のカカオポッドが収穫できるが、大抵は2~3年の期間は待つ必要があるとのこと。

④農家の人には安定収入がない
前述とも関連するが、農家の人の多くは収穫高や相場によって収入が大きく変動するため、できるだけ高く売れる作物、効率の良い作物を育てたないと生活が苦しくなる。米を栽培することで自給自足ができ、その他の作物をマーケットで売って、そのお金で生活用品や贅沢品を購入するという生活をおくっている。

⑤カカオ農家の多くは高齢者


僕が訪問した農家さんの多くは50~60歳ほどの高齢の方が多かった。若い人が仕事を求めて都市部に出て行くのは日本と同じようだ。そして、機械をつかった農作業ではなく、ほとんどが手作業のため効率はあまり良さそうには見えなかった。カカオ栽培に適した農作機械があるかはわからないが、今後機械を導入したとしてもその投資を回収できるほどカカオで儲かるかは不明だ。

⑥カカオ豆の相場を把握している農家は少ない


カカオ農家の人はロンドンやニューヨークのカカオ相場を知らない。もちろん、バイヤーにいくらで売ったかを知っているので、過去の相場は知っているが、どういうタイミングで高くなっているか、などは把握していない人が多い。

⑦バイヤーは複数の階層に分かれている


農家の人がバイヤーに豆を販売した後に、そのままバイヤーがメーカーや商社に販売するかというと違う。その先にまたバイヤーがいるのだ。例えば、青森の八戸で取れた魚を築地のバイヤーが買取、築地のバイヤーが飲食店に販売するようなもので、農場がある田舎のほうのバイヤーが加工工場がある都市部のバイヤーにより大きなバルクで買い取ってもらうのだ。

よって、カカオ豆がチョコレートになって消費者に届くまでには次のようなプレイヤーがいることになる。

農家       -カカオの木を栽培、収穫、発酵、乾燥
農場現地バイヤー -農家から買付
都市部バイヤー  -現地バイヤーから買付
加工業者     -バイヤーから買付、カカオパウダー、カカオリカー、バターに加工
商社       -都市部のバイヤーもしくは加工業者から製品を購入しメーカーに販売
チョコメーカー  -素材を配合してチョコレートを製造、広告宣伝、販売
卸売       -メーカーから仕入れ
小売       -メーカー、卸売から仕入れ

消費者      -小売から購入

見てみるとわかるが、農家と消費者の間には最低でも7つのプレイヤーがいる。
これがさらにチョコメーカーが委託する工場なども絡み合ってくる。

農家の人は自分たちの栽培したカカオの行く末を知らないとよく言われるが。
カカオ相場もバイヤーの人から言われない限り知らないし、先進国でどのように加工されてチョコレートにどんな価格がついて販売されるかを把握するのはこの構造を見れば現状不可能であることは明らかだ。

でも逆に言えば先進国側のメーカー達にとってはこのほうが都合が良いのかもしれない。

大手チョコレートメーカーが実施していることは
安定した品質を保つための素材調達先を確保し、大量に一定品質の商品をつくり
大々的に広告を展開し、大衆(マス)に販売する
ことである。

もちろん、消費者が素材にこだわるようになればメーカーもそれに沿って調達方法を変更する必要がある。明治や森永のような大手チョコレートメーカーであれば、そういった調達ルートは既に開拓しているはずなので、消費者の動向を見て、コモディティなカカオを使った商品とプレミアムなカカオ豆をつかった商品をどう使い分けるかという勝負になるのではないでしょうか。

つまり大きく分けて二つの商流があり

A.メーカーが各地、各国のカカオ豆をミックスすることで大衆にウケル安定した味をつくり大量に販売することで成立する薄利多売のビジネスモデル

B.メーカーが各地のカカオ豆独自の味や品質を消費者に訴求し、一部のこだわりある消費者にウケル高付加価値の商品を限定数売るビジネスモデル

農家の人が栽培するカカオ豆がコモディティになってしまうか、それとも独自のプレミアム品質のカカオとして販売できるかはその先のメーカーに委ねられているというのが現状であることは確かなようだ。

ぼく個人としては、インドネシアのカカオ農家の人が頑張ったら頑張ったぶんだけ報われる(ダリケーさんの取り組みのような品質の担保で)市場の原理というのがこのカカオの市場でも働くべきだと思う。ただ、そのためにはBのような「品質にこだわったカカオ豆が売れる土壌」を拡大する必要がありそうだ。

Aのビジネスモデルでは消費者に提供する価格自体は大きく変わらないはずで、Aの市場自体が拡大するか、買取価格の大幅な底上げがなければ農家にとっては収入が増加する見込みはない。

そんなことを強く感じたのが今回のカカオ農家訪問でした。

カカオ豆を農家の方から実際に分けていただいて日本に持ち帰って来たので
ぜひ、試しにチョコレートやチョコレート菓子をつくって楽しみたいと思います。

もしも、カカオ豆からチョコレートをつくることを一緒に楽しみたいという方がいらっしゃれば、コメント欄などからいつでもご連絡いただければ!!15kgも持ち帰ってきて、僕ひとりでは使い切れない量なので助けてください!!泣

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